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2011年10月5日水曜日

江口渙:少年時代

江口渙(1887.07.20 (明治20) 1975.01.18(昭和50))の遺作「少年時代」を読み終えた。これが実に面白い。

歴史は門外漢の拙者にとり、明治という時代が、この本程身近に感じさせてくれる書物に出会ったことはなかった。作者は明治20年生まれ。全42章からなる回想録は、1971から書き始められ1974年末に完成。そして、翌年1月に87歳の生涯を終えている。お恥ずかしいながら、拙者遊びボケていた学生時代、その同じ頃、最晩年の4年間「少年時代」との格闘の日々であったようだ。この回想録は、生前の幕末期頃から明治32年の東京府立一中入試に合格するまでとなっている。
 少年時代:全42章の目次

実は最近まで、江口渙という作家を知らなかった。全集が無く、今ではあまり読まれない作家らしい。ネットで何か調べていて、「小林多喜二の死に際しては葬儀委員長をつとめ、それを理由に検挙された」人物としてその名を知ったのである。そこで、代表作位は読んでみようと思い立った。先ずは回想録が面白かろうと、代表作の「わが文学半生記」を、いつも利用している渋谷区の図書館蔵書を検索してみた。ところが蔵書に無い。そこでヒットした数少ない著書を調べ、「少年時代」に目が止まった。総頁数560、読み応えは十分有る。と、そう思い予約したのである。

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拙者が物心ついた小学生の頃、近所・親戚の古老といえば明治20年代生まれだったような気がする。というのは、拙者の祖父母が明治30年代生まれなので、彼らより10年程年上の世代である。だが、彼らから明治の頃の話を聞いた記憶はない。都会から遠く離れた三陸の地は、歴史の教科書に扱われる程の事件が起こりうることは先ず無かった。日清・日露戦争に従軍したという話も聞いたことがない。明治29年に発生した三陸大津波の体験者さえも知らない。個人的には、あの頃でも明治とは遠い昔の時代のように思っていたのだ。

明治20年生まれの作者は、拙者が知る近所・親戚の最古老と同世代ではあるが、歴史の表舞台に近いところで幼少期を過ごしている。父親は、幕末に14歳で会津討伐軍にかり出され、その後東大医学部で森鴎外らと学び、伴に陸軍軍医として出世コースを歩んでいる。東京で生まれた作者は、父親の転勤にともない、幼児・少年期だけでも東京→大阪→熊本→小倉→東京と移り住んでいる。その時々の生活・事件・イベント等を直接見たり聞いたりし事を、恐るべき記憶力と「歴史」を見る鋭い目で、回想しているのである。明治を直接知る人物だけに、「少年時代」は幕末期から明治32年頃までの時代の、正史に隠れた証言記録ともいえる。

彼は「歴史」について、文中でこのように書いている。

「歴史」と対決する場合、裏にかくされている「実像」と表に残される「虚像」とを見分けるだけの正しい科学的な追求と、鋭い直感とを併せ持っていなければ「真実」はわからない。

本書全体を通じこの精神が貫かれ、昔を懐かしむ懐古趣味は無い。歴史の裏に隠された「真実」を鋭くあぶり出しているのだ。そこが出来合いの歴史書とは異なる点であり、それだけに色々発見があって面白い。

本書の内容を一部、日を改めて紹介することにしよう。
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