最近、リュート(ギターに似た古楽器の一種)音楽に魅せられている。
その何が魅力か。洗練され(過ぎ?)た現代の楽器には無い、手作り感覚の音色と言ったらよいだろうか。
枇杷の形をしたこの楽器は、ルネッサンスやバロック期にヨーロッパ中で相当普及したらしい。だが、チェンバロやピアノ等の鍵盤楽器が登場するや、歴史の片隅に忘れ去られてしまった。言ってみれば滅びた恐竜みたいな楽器で、20世紀には博物館でしか見られなくなったという。絵画にもよく描かれているらしい。音量は乏しく、弦が多過ぎて調弦が煩わしく、またメカニック的にも鍵盤楽器のような速弾きは到底望みうるものではない。音楽が高度化(感情爆発的音楽…)し、大ホールでの演奏が前提となると、この古楽器は滅びてしまうのは当然の成り行きであった。
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当方が、文化もヘッタクレもなかった当時のケセンの海辺の町から上京し学生だった頃、バロック音楽がちょっとしたブームだった。クラシック音楽の人気ランキングで、人気のベートーヴェンを抑え、ビバルディの「四季」が常にトップの座にあった。他に、バッハのブランデンブルク協奏曲も入っていたように記憶する。兎に角、イ・ムジチ合奏団の「四季」が人気の定番であったことは間違いない。またこの頃、NHK-FMで、皆川達夫の「バロック音楽の楽しみ」が毎朝放送されていたが、この番組がブームの火付け役だったのかもしれない。
ステレオは高額でLPレコードも2-3000円と、貧乏学生には手が出ない。クラシック音楽をふんだんに聴くには、NHK-FM放送が一番手軽だった。歩いている時、電車に乗っている時、ショルダーバックに入れたトランジスタラジオで、イヤホーンを耳に挿して垂れ流し的に音楽を聴きまくっていた。未だSONYのウォークマンが登場する前の頃である。その時分に、FMから流れてきたビバルディのリュート協奏曲?で一度だけリュートの音を聞いたような気がする。
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あれから40数年。FM放送に代わり、YouTubeが登場。古今の音楽をふんだんに聴けて、誠にありがたいご時世である。
暫く忘れていたキーワード、「リュート」で検索したところ、その演奏サイトが沢山見つかった。ルネッサンス期・バロック期の音楽の研究が一段と進んだようである。また、「日本リュート協会」も設立され、国内で演奏されている愛好家も少なくないようだ。海外で活躍する日本人リュート奏者も結構おられるみたい。中には、音色に魅せられて、ギターからリュートに完全に転向されたプロの演奏家もいた。40年前とは状況が大きく変わっていたのである。
そんな中で、リュートデュオ・カップルの演奏がお気に入りである。特に、バッハの鍵盤楽器用の曲をアレンジした演奏は最高!!
フランス組曲(No.3、BWV814)は、ピアノやチェンバロの演奏でお馴染みであるが、リュートの響きには絶妙の美しさがある。鍵盤楽器にはない、いわゆる「ゆらぎ」の響きにあるのでは…と思っている。注意して聴くと、確かに音は不揃いである。が、ちょうど毛筆の文字のような、流麗な響きがある。指先から音が紡ぎ出されるといった趣である。高度に機械化された鍵盤楽器では到底味わえぬ、古楽器特有の音色のように思える。
フランス組曲No.3のアルマンド(演奏:リュート・デュオ)
オルガン曲のトッカータ(BWV540)も素敵だ。同一のフレーズが、手を変え品を変え次々と繰り出される曲調に圧倒される。バッハの音楽は実にカッコいい、こりゃロックだな…と思ったところ、案の定プロブレ・グループのELP(曲名:The Only Way)でも使われていた。当然、オリジナルのパイプオルガンによる演奏サイトが多い。色々比較して聴いてみたが、大仕掛な音量で迫るオルガンの重厚な響きもドラマチックで良いが、リュート・デュオのアップテンポな素朴で繊細な音色にも魅せられる。ビューティフル、マグニフィセント、ファンタスティック、ブラボ…と賞賛のコメントが多い。それ以外に形容のしようがあろうか…。
当分、リュート・デュオを中心とした「ゆらぎ」のリュート音楽に耳を傾けることになりそうだ。
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